山ぶどうの酸を楽しむ、ワイン。

涼海の丘ワイナリー

標高500m、海岸から約1km。遠くに北西太平洋を望む丘に、このワイナリーはある。時には、海から吹くやませが、霧を連れてここまであがってくるという。ワイナリーの周辺には、いくつかの山ぶどうの畑がある。野田村は、日本一の山ぶどうの生産地であり、ミネラルを豊富に含むやませに吹かれることによって、良質な果実をつくる。秋が深まれば、山ぶどうは糖度20にも達する。糖度がこれ以下だと、発酵してもアルコール度数が上がらない。ワイナリー裏手には、閉山になった鉱山坑道がある。この坑道では、年間を通じて温度が8℃から12℃、湿度は80%というワイン熟成に最適な環境が常に保たれている。涼海の丘ワイナリーは、この坑道の存在もあって、この地につくられたものだ。

ワインづくりは手作業。山ぶどうを搾り、熱殺菌せず、上澄みのきれいなところをフィルターに通し、発酵させていく生詰めという方法でつくる。搾ることによって、皮の成分も抽出され、味の一部となる。赤は発酵させてから、砕いて搾る。樽熟成させるものは、生詰めにし、坑道で熟成させていくうちに味の変化が出る。山ぶどうのあり余る酸の原因となる酒石酸は、人工的に消すのではなく、冬の寒さに固まり落ちながら、酸はワインの中に溶け込んでいく。ロゼはいくつかある白ワインの製法のひとつ、砕いてから搾り、発酵させるという方法でつくる。ただこの山ぶどうでつくるロゼは、その味はロゼだが、色は赤に近い。鮮やかで赤に近い色をしているが、シャンパーニュや白ワインの酵母で醸造するので、海の幸にもより添うテイストとなる。

あるソムリエは、このワインに、少し塩味を感じるという。あるシェフは、海を感じるという。ワインになっても、山ぶどうはまだ、やませに吹かれた記憶をその味に残す。山ぶどうは、ワインの素材としては手間もかかり、搾汁率も悪い。しかし、海外で育たない山ぶどうによるワインは、日本だけの、酸を楽しむワインとなる。

坂下誠
涼海の丘ワイナリー 醸造所長

シニアソムリエの資格をもち、ホテル勤務から、ワインをつくる側のワイナリー醸造所長へ。山ぶどうワインで実績のあった岡山「ひるぜんワイナリー」で醸造を学ぶ。

online store

生産者一覧