気候にゆだねて、熟成させる。

佐幸本店

山ぶどうは全国各地で自生しているが、とりわけ北三陸の山ぶどうは、ミネラル分を含む海からの風、やませを受けて育つせいか質のいい果実をつける。かつて、この地域の農家では、栄養成分などという認識がないままその果実を麻袋に入れて搾り、甕や一升瓶に貯めて、生活の知恵として栄養不足になりがちな産前産後の妊婦に与えてきたという。山ぶどうは、ぶどうの三倍の鉄分、八倍のポリフェノールなどを含む。

この山ぶどうの果汁を製品化し、より多くの人に飲んでもらいたい、と佐幸本店の先代となる創業者は、野生種の山ぶどうの栽培に乗り出した。しかし、畑をつくった当時は、山ぶどうが雌雄異株であることを知らず、植えた山ぶどうのほとんどが果実の付かない雄株だったという。安定した収穫量を得るには十年の歳月を要した。

山ぶどうの果実を搾る。機械化はしているが、もともと農家でつくっていた工程と変わらない。それを貯蔵缶に空気が入らないように、一杯に詰める。空気が入らなければ、発酵はしない。苦味や酸味の原因となる酒石酸は、冬の気温でマイナス5度になると、固まって沈殿する。北三陸の気候にゆだねて、三年間寝かせるといい味になることは、創業者の経験からだった。「山のきぶどう」の「き」はなにも足していないことを意味している。

佐幸本店のある久慈市内には、端神(ハシカミ)という地名がある。これはアイヌ語で「山ぶどうがあるところ」という意味だ。北三陸が、古くから山ぶどうを生活に深く取り入れてきたのがわかる。

佐々木 茂
佐幸本店 代表取締役

創業者の経験や実績をすべて受け継ぐ、三代目。先代とともに、野生していた山ぶどうの栽培に着手し、商品化。北三陸の名品とまで言われるまでに「山のきぶどう」を育てた。

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