冬だけのホワイトアスパラガス、という新しい発想。

三右ヱ門

ビニールハウスの中に数列つくられた畝には、トンネル状の遮光されたビニールの屋根がはってあり、それをめくると、真っ白なアスパラガスが、まさにニョキニョキと生えている。5分ほどでも日光にさらしていると、光合成を始め、グリーンになってしまうという。収穫は、遮光されたビニールハウスの中、頭にヘッドライトをつけて行う。

北三陸でも内陸になる、二戸市浄法寺町の馬場園芸。このホワイトアスパラガスは、200年以上にわたって続いた農家の9代目馬場淳(まこと)が、2013年より家業の菊栽培の遮光設備を利用してつくりはじめた。

アスパラガスは春から夏、露地での株づくりから始まる。植物はなにを吸収したかで味が変わるという。ここの土地は黒い火山灰土壌でふかふかして、水持ちもいいが、排水性もよい。そんな特長をいかしながら、露地の土作りにこだわる。11月からその株をハウス内に持ち込む「伏せ込み栽培」を行う。この方法により、アスパラガスは冬期でも生産が可能になった。このままではグリーンアスパラになるのだが、それを遮光してしまう。

ビニールハウスの中は、冬でも20度を超える。朝は0度まで下がる。ホワイトアスパラガスは光合成をさせないので、呼吸しかしない。その寒暖差を利用して、呼吸をおさえることで、糖が残る。

ほとんどのホワイトアスパラガスは、土の中で発芽させ育つことによって光合成してないものを、掘り起こして収穫される。しかし、馬場園芸では土寄せせず、暗闇の中で芽を出させる。芽と土が接することによって生まれるストレスがなく、苦味の原因となるサポニンが生成されない。これが苦味の少ない、果実のような甘さをもつホワイトアスパラとなる。

地温を保つため、それぞれの畝の下の管には、25度の温水が流れている。燃料としてはこの地域で出る籾殻を使う。燃やした籾殻は、くん炭という肥料として畑に返し、循環させる。余ったものは、近所の農家にも供給している。

ホワイトアスパラガスの旬は、4月から6月。2月くらいから佐賀県からも出荷されるが、馬場園芸はそれよりも早い、12月からホワイトアスパラガスを出荷する。伏せ込み栽培、整った遮光設備と自然環境で、果実のような甘さを実現した。冬採りのホワイトアスパラガスは、全国でもここだけのものだ。

馬場は、生産するアスパラガスをホワイトアスパラガスに特化したとき、単なるホワイトアスパラガスとして扱われるのは避け、その特長をはっきりとさせるため、製品名を「冬採りホワイトアスパラガス・白い果実」とした。そして「三右ヱ門」という屋号をロゴにしたブランドからの生産・販売を開始した。コンセプトは、畑から届ける最高の贅沢。ロゴの表記をアルファベットにしたのは、いつか海外の美食家を唸らせたいという想いからだという。

馬場淳(ばば・まこと)

馬場園芸 代表取締役

農学校を卒業し、地元に帰り、農業青年クラブの会長になる。そのとき、町の減り続ける人口動態を見て、愕然とする。この町に魅力的な職場、働きたい職場をつくろうと考えたとき、アスパラガス、菊の遮光施設、この自然環境というパズルのピースがはまって、ホワイトアスパラガスの生産を始めた。2019年には、旧給食センターを借り受け、「フィールドキッチン」という名前でホワイトアスパラガスの加工冷凍施設を稼働させている。

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