柿木畜産
和牛には、四種類ある。黒毛和種、赤毛和種、無角和種、そして日本短角種だ。いわて山形村短角牛は、その日本短角種を代表する和牛。青森県西部と岩手県北部にまたがる旧南部藩時代、明治初期に内陸と沿岸の間の物資移送のために使われていた日本在来種の南部牛と、輸入されたイギリスのショートホーン種の交配によって生まれた。
いわて山形村短角牛は、春に親子で広大な放牧地に放たれ、秋に里に下りてくるという、夏山冬里方式で育てられる。子は母乳で育ち、親は豊富な牧草を食み、夏は時にやませが吹く森の中を駆け回り、雪深い冬は国産にこだわった飼料や、畜産家が自ら育てたトウモロコシなどを食べながら、牛舎で春を待つ。春には、前年の夏の自然交配で、子牛がまた誕生する。
畜産家である柿木は、この短角牛にこだわる。この畜産を始めるとき、霜降りを重視という日本の肉質評価の流れのなかで、短角牛は絶対に無理だと言われたという。彼は牛といえば、短角牛という環境で育った。こんなに自然の中で健康的にのびのびと育てられる短角牛が、評価されない訳がない。確信もあり、意地もあった。
肉質は、本来の赤身の味が濃く、しつこくない脂身が特長。赤身はパサパサした肉というのは大変な誤解で、それは焼き方が間違っているという。赤身のおいしさを味わうなら、熱をいれすぎないことだ。六十度くらいの熱でじっくりと焼くのがコツ。正しい焼き方で焼いた短角牛は、飲み込むのが惜しいほど、と言われるという。噛めば噛むほど、肉のおいしさが口に拡がる。
柿木敏由貴
柿木畜産 代表
自らを「牛飼い」と称する柿木。柿木の育てる短角牛は、本来の牛肉の旨さを持つことから、イタリアンやフレンチのシェフなど、多くのトップクラスの料理人からも高い支持を受けている。